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羽娘がいるからちょっと来て見たら?
404 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:00:54 [ W7Ssoff. ]
*「アイマイ」

朝のオフィスは、定期的な行事で始まった。
「はよーっす」
「おはよう」
「はー……」
「おはようございますー」
「はよーん」
「はー……」
行事の開始は断続的に発せられるため息が合図。
「やれやれ、またか」
「慣れた」
真理の辛辣な意見も、全員が賛同してしまう。
そんな、行事。

行事の中心――机に突っ伏したセリエ――に近づく影一つ。
「セリエさー。今度は誰よ?」
「はー……」
「おーうい?」
シヴィルが彼女をつつこうとも、羽根の一つも動かさず。
ひたすら、ただひたすらため息を吐く事が仕事のように。
「……。ユニ子」
「……?」
手招きで呼ばれたユニーへ、耳打ちする。
「重傷だわ」
「むぅ……」
いつもの行事とは違った、深刻な状態だった。

405 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:02:15 [ W7Ssoff. ]
昼休み――。
「今回は酷いですねぇ……」
「いつもみたいに、愚痴吐きすらしないしなぁ……」
供え物のような、セリエに出された食事を片付け、ラプンツェルとベリルが言葉を交わす。
会話をしつつ、当番である食器洗浄を行い。
大量に泡を吐き出すラプンツェルの手元と、手際よく光沢を食器に与えるベリルの手が並び。
「洗剤使いすぎ」
「ううう……」
しっかし、と続けつつ、ラプンツェルにあてがわれた仕事にベリルは手を付ける。
自分の仕事をすでに終えたその手は、淀みなく作業を続けたまま口も止まらない。
「あれだけほれっぽいってのも才能かねー」
「う……うーん」
家事には慣れている彼女でも、色恋は慣れていない。
それは隣で、家事にあまり慣れぬ娘も同様で。
「「んー」」
首を捻った二人の前、過剰な泡がいくつか空に舞う。

406 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:02:56 [ W7Ssoff. ]
夕刻も近くなった。定時間際で。
「明日はたのしー、おやすみだー」
「それはいいんだけど……」
姉妹が揃って視線を向けた。
突っ伏したまま動かない人影を見つめ、
「これじゃ、あまり気が晴れないわね」
「ねー……」
ごめんねと姉妹のデスクに声がかかる。
「代理してもらっちゃって……」
「いいんですよ」
「たいちょーが謝る事じゃないですよー」
三人が書類を片付けていく。
「若いっていいわねぇ……」
隊長がため息を、例のオブジェと化したセリエに向けて吐き。
「どんな人だったんだろ」
「こら、ドミー。詮索しちゃだめよ」
だって、と続き。書類を一枚仕上げた彼女は、それを完了領域と設定したデスクの領地へ置いた。
左右の完了領域ほどの高さはない。
それでも手を早めず、口だけが優先的に動き。
「そこまで好きになれるって、ちょっと羨ましいなーって」
苦笑二つ、そしてオブジェを見つめる視線が増えた。
少しばかり遅れ、含んだ笑みが向かいから。
夕子の苦笑だった。

407 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:06:06 [ W7Ssoff. ]
夕暮れもそろそろ終わる、夜の始まり。
オフィスには一人。
一体。
突っ伏したセリエのすることといえば、ため息だけで。
そこにひとつ、衣擦れが響く。
セリエにタオルがかぶせられた。
「風邪、ひかれますわよ?」
「ゆーこさん……」
夕子はそのままセリエの隣へ椅子を引き寄せ、腰掛けた。
ようやく顔をわずかに上げたセリエの頭をタオルごと撫で。
「よしよし。今回は大変でしたのね」
少しばかり平坦な、柔らかい声を紡いだ。
「ええ」
要約の笑顔は苦笑で、泣き笑いを混ぜたような表情だった。
「少し、気晴らし致しましょうか?」
対する夕子が浮かべる満面の笑みに、セリエは小首を傾げた。
「こんな良い夜は、外に出るのもよろしいですわ」
灯り一つ付けないオフィスの外、月明かりと星が夜空を彩る。
突っ伏し、潰れたセリエの髪が月明かりに揺れた。
いつもの髪型になるには、もうしばらく時間のかかるであろう癖がついたまま。

408 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:06:40 [ W7Ssoff. ]
夜もざわめく、繁華街。
週末の力を得た街は、暗闇を物ともせず。
人々は眼鏡を着用して街並みを歩く。
「どこいくんですか?」
いつも通りのセリエではある。
沈んだ声以外は。
「私のお気に入り、ですわ」
夕子の導くまま、一軒のパブに入る。
室内は明るく、二人は慣れた動作で眼鏡を外した。
「いらっしゃい……お、海野さん」
「良い晩ですわね」
「夕子さん来たかー」
何人もの声がかかり、
「常連なんですね」
ええ、と軽い相づちがあり。
「同僚の……」
誘い水になったのは、夕子の視線と手で。
それはセリエを示していて。
「え、えっと。セリエです」
「よろしく。それはそうと……」
カウンターに立つ、マスターらしき男が紅茶を二人分用意し、それに誘われるがまま席につく。
「元気無いね」
「解っちゃいますかぁ……」
店内のざわめきと活気、柔らかく立ち上る香りに目を細め。
わずかに張りった声でセリエは苦笑した。

409 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:07:29 [ W7Ssoff. ]
ひとしきり、紅茶を飲み。
休み休み、言葉を吐き。
徒然に、ざわめきを耳にし。
常に、店の柔らかな空気を吸った。
ようやく、行事らしい――ややへこんだだけの――表情となったセリエは、カップを煽って、底を見た。
「恋愛って難しいですね」
最後まで暖かな液体を飲み干し、ため息と暖まった空気を吐き出し、セリエが口を開いた。
一息置けば、カップは持ち上がり、マスターが新たに液体を注ぐ。
どうも、と声を返し、会話は続く。
「好きになれることは、素敵ですわね」
「中尉だって、好きな人は……あ」
手のひら一つ、夕子の止める手。
「気になさらないでね? 羨ましいんですのよ」
「羨ましい?」
「好きでいることを、自由に表に――良いことですわ」
「……ですね」
自由に出せるセリエが申し訳なく思い。
焦点の合わぬ瞳で、自由に出せぬ夕子が昔を思いだしていた。

410 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:08:02 [ W7Ssoff. ]
沈黙はわずかに、夕子がそれを乱し。
「合間、ですから」
「合間?」
夕子は一息、紅茶のカップに口を付け。
「戻ってきても、来なくても。今は秘めている時期なのですわ」
「中尉は強いですね」
「いいえ? 弱いから決断ができませんのよ」
「思い切りが無いんですよ、私って」
素直な笑みを、夕子に向けた。セリエの笑顔は柔らかい。
「似てますね」
「違いますわ」
即答され、沈黙が再び。
夕子が席を立ったからだ。
パブの奥にある、それは簡素なステージ。楽器がなければただの段差として扱われそうな、簡易な物だ。
彼女はステージに上がり、そこにある椅子へ腰掛け。
「お付き合い下さいませ」
声を店内にかける夕子は、店に備え付けられたアコーディオンを準備している。
数人の客が席を立ち、店内のざわめきが少しずつ収まっていた。
席を立った者はめいめいに楽器を持ち、それを調整する。
ステージに立った一同が目配せし、うなずき一つで、全員の胸に指揮棒が踊った。
曲が始まり、そこで雑音は完全に消え、すべてが楽器と息づかいで染められる。
暖かな店内の空気に、音の色彩が乗った。
練習を繰り返していたのか、淀みなく、連携は十二分の演奏。
わずか数分の一曲だが、拍手で締められた。

411 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:10:28 [ W7Ssoff. ]
演奏が終わり、セリエがステージの前に立ち、拍手を送る。
「練習してたんですね」
「うふふ」
そうそう、と前置きした彼女と演奏者達は、演奏をやめてもその場を離れず。
「まだ、歌い手がいませんの。よろしかったら歌ってくださいません?」
「え……?」
ようやく、暗い表情が解けた。
ただし、疑問の表情に。

「あー。あ……」
ん、と小さくうなずく、ステージに立つセリエは、思いつく限りに言葉を巡らせた。
メロディはおおよそ残っている。
多分、歌える。
歌詞は無い。リアルタイムで作る。
アイドル志望の力は、作詞に注がれている。
だから、
だから、
「ぶっつけですけど、いきます」
ざわめきは一つ、そこからの沈黙。
そして、再び。
一人を追加したメンバーの演奏が始まる。

412 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:11:48 [ W7Ssoff. ]
(曲ここから)
前奏は、やさしく、夕子のアコーディオンがリードだ。
来るべき、歌う場所を待ち、セリエは軽く足を踊らせた。
椅子に腰掛け、足をばたつかせ。不安を蹴飛ばすように。
無邪気な行為に見えるそれは、天使のようでもあり。
足を一つ、大きく蹴ると同時に、大きく息を吸い。
歌い出した。

「澄み渡る――」
失恋で打ちひしがれた心を、吹き飛ばしたく思う。
秘めた心の同僚を側に置き、自分なりの慰めを歌おうと思った。
平穏な心を空に。
昔の、痛みだけを忘れるために。
星を、思い出に語る。
家族の面影や、ふられた男達が星として。
――全部、結局は。
やる気と応援の力になったのは、思い出と面影で。
――支えられてるんだぁ。
アコーディオンが追いかけてきた。
支えるように、包むように。
暗い結果を持つセリエが歌い。
暗いかもしれない結果を待つ夕子が演奏する。
――思い出を、ね。
星を見つめ、それでも朝が来る。
見守った星は消えず、朝も楽しめるから。
それを、セリエは歌う。
自分のため、夕子のため。
――誰かのため!

413 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:14:01 [ W7Ssoff. ]
挿絵は、伯爵の絵より。
これを燃料に、歌はまだ続く。


414 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:19:09 [ W7Ssoff. ]
喝采も、店の喧噪も、全て眠った。
即興の演奏は十二分の手応えと、反応に包まれ。
あれほど飲み干した紅茶の代金はサービスになった。
二人で帰る、帰り道。
眠り始めた街は静かで、足音と一つの旋律が周囲を包んでいた。
「ららら……」
ハミングを、先ほどの曲を続けるのはセリエで、その後ろから夕子が付いてくる。
「曹長?」
「らら……はい?」
「星に、お願いしましたわね?」
いつもの、元気というにふさわしい足取りでセリエは一回転、夕子の方へ向き、明るく笑う。
「思い出とか、気持ちとかを。わかっちゃいますよね」
「ありがとうございます」
目端、涙が一筋。そして、彼女はしゃがみこむ。
「ちゅ……中尉っ」
慌ててかけより、彼女をなでさする。
夕方とは真逆だと、セリエは思う。
「少し……折れそうだったものですから……」
「私だって、折れません」
だから、と一言。
歌に乗せた思いの対象を見上げた。
満天の、輝くそれは。
思い出を乗せるにふさわしい。

415 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:24:29 [ W7Ssoff. ]
「朝まで」
二人はそれを決め、空を見上げ続ける。
涼やかな風が羽根を揺らし、月と星が二人を照らし。

「見守られてます」
「見てくれているのですね」

輝く星に、両手を捧げ。
セリエは歌を繋いだ。

――時が全てのこと許す限り この空いつまでも見上げていたい♪

「思いつきで歌ったんですよ」
「でも、素敵でしたわ」

「中尉と私、やっぱ似てますよー」
「そうですか?」
セリエはメロディのハミングを続けたまま、空を見上げた瞳をつぶり。
目では見えぬ、思い出を撫でた。
「辛いから、忘れられないし忘れたくないから、大事だから」
――強くなったんです!
セリエはそこで言葉を飲み、いつものような、元気を現したジャンプで、空に体を預けた。

416 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:26:41 [ W7Ssoff. ]
「朝でも、夜でも。思い出の星は消えません」
「気持ちの星も、ですわね」

「いーぐざくとりー!」
「うふふっ」
二人の支える物は暗い。
それでも、その中で明るく輝く物が、
今、二人の視線と指の先に、

燦然と輝く。

*終わり
♪J.e.t. 様
あいまい
http://www.muzie.co.jp/cgi-bin/artist.cgi?id=a000495

これ読んで、もしよかったら
声をください
続ける気力にして、やってみます

417 名前: 隣りの名無しさん 投稿日: 2006/08/30(水) 02:28:33 [ xc/F.KPI ]
……俺もそういうのがあればいいなぁ(´・ω・`)
セリエさんと中尉がうらやましいよ。・゚(ノД`)゚・。

418 名前: 隣りの名無しさん 投稿日: 2006/08/30(水) 02:38:32 [ 6l6mqvwA ]
>辛いから、忘れられないし忘れたくないから、大事だから
良いなぁ……これ。俺も強くなりたいよ。・゚・(ノД`)・゚・。

ところで、曲がセリエさんのためにあるような感じが物凄くするんですがw

419 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 02:50:43 [ W7Ssoff. ]
>>417
「私達の根っこは一緒なのですわね」
「まけるもんか! ですよ!」
「それが溢れているのが曹長ですのね」
「にゃはは、いぐざくとりーぃ!」

>>418
「黙って叩かれるのはもうお終いなのです!」
「自分を強く持つための、何かですの」

*ええ、実はセリエ ポジの候補Aでしたwww

420 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:11:56 [ W7Ssoff. ]
*短編『ささやか、せつじつ』

ラプンツェル・フレトリアという女が居る。
彼女の過去を、少しだけ話す。
それは、大事なことで。
それは、言いにくいことで。
それは、嬉しいことだ。

彼女がまだ、軍部に入る前の事だ。
彼女は、悲しい過去を持つ者の一人だった。
親に、物として育てられ。
未だに重荷を背負って、
その重荷を積み重ねていた時代の事。

421 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:13:42 [ W7Ssoff. ]
彼女は夢枕で苛まれていた。
目標で、
恐怖の対象で、
疎ましく、
羨ましい、
そんな相手の出る夢だ。
この夢はあの日から、いつまでも。
ある日を境にするまで、幾度も見る夢。
今夜の夢は、いつも通りの、そんな悪夢で、悪くない夢で。
どうしようもなく、苦しい夢だ。

422 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:14:15 [ W7Ssoff. ]
(いっきょくめ ここから)
長い道を、どこともしれぬ道を歩く。
その先に居る存在は、彼女を知っている。
彼女もそれを、知っている。
固く閉ざされた扉一つ。
その向こうから、剣気が溢れていた。
切り裂かれても、断たれても、それは当然だろうと思うほどの、鋭い剣気だった。
近寄ることを、彼女は求める。
殺されても良い。
自由になれる。
そして、変われる。
いつも、そう思った。

彼女は、籠の中にとらわれた鳥だと、己を自嘲する。
苦笑一つ、それがこの夢の終わり。
汗ばんだ体と、気だるい眠気、そして倦怠感と共に、今日が始まる。
この切ない朝を、毎日のように恨み、そして体を動かすことは、他人の意志だ。
自分の動かす、他人のための体。
自由のために、誰かを数えた。
1,2,3。
仕事を終えた彼女の顔は、人形のように。
地下道を歩く彼女は、操り人形と言うにふさわしい。

忌まわしき昨日を忘れ、明日のスケジュールなど見たくもない。
同様の今日だけが、命の賭けられる時間だ。
先のことは、何も考えられない生活だったと思う。

423 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:14:47 [ W7Ssoff. ]
自由になりたい。
自由は遠かった。
そのための生活は、血塗られたと言って良いだろう。
そしてある日。
再びそいつに出会った。
無表情に小柄な体。軍属の娘は一人で彼女の前に立った。
前と同じで、簡単に負けた。
銃器も、ナイフも、重火器も。
たった一刀の刃にて、死の直前、手を止められた。
「経験の差」
それだけを告げ、軍属の娘は立ち去り。
いつまでも、死を与えられるそいつに憧れた。
勝てないことの悔しさはない。

三度の出会いは、敗北で始まる。
彼女は無敗の暗殺者であったが、こいつにだけは勝てぬ。
それが不思議で、心地よく。

424 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:15:32 [ W7Ssoff. ]
自由は、また与えられないのだ。
殺さず。
敗北だけをそいつは与える。
今日はわずかに違い、そいつは口を開いた。
「何故、続けるの」
短い言葉に、彼女は応える。
「一日三人、それで自由が貰えるから……」
「そう」
立ち去り、階段を歩くそいつは、また彼女を殺さない。
平然と、
苦もなく、
彼女に死を与えられる剣技は、美しい舞になって。
それだけが頭に残る。
私を殺して欲しい。
彼女の願いは、いつも叶わない。
頭に残る美しさだけが、いつまでも胸を締め付け、いつもの夢を続けさせる。
(いっきょくめ ここまで オーノキヨフミ 平凡 http://www.jvcmusic.co.jp/speedstar/-/Discography/A018189/VICL-35678.html

425 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:16:41 [ W7Ssoff. ]
幾度の夢を見ただろう。
幾度の朝を迎えただろう。
何度、殺してくれと思ったか。
何度、自由になりたいと思ったか。
もう、数えることを止めた。
数えてもきりがない。
手を赤く染めた回数より多いことだけは、確かだ。

これ以上、この手を赤く染めない方法がある。
望みを叶えてくれる、そんな方法がある。
そして、自由になれる。
それを強く思った彼女は。
操り人形の糸を、かすかにほころばせた。

426 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:17:36 [ W7Ssoff. ]
(にきょくめ ここから)
願うことを叶えたくて、言葉だけ持って走る。
遠く、どこかへ、知らぬ場へ。
暗殺者は迷える子羊に。それでいい。
空を飛びながら、あの美しい剣技を想う。
それだけで何か不思議なあこがれが胸を焦がした。
忘れた呼吸をして、翼へと力を伝え。
彼女は飛ぶ。
何処へとも知らず、あいつを探すため。
夢で何度も感じた、忘れえぬ気配を求め、ようやくそいつを見つけた。
偶然なのか必然なのかは解らぬが、思い出した再びの呼吸に苦笑した。
出会えた安堵でも、叶えられそうな喜びよりも、
なにより、死にたいと思っていたはずなのに、呼吸を愛おしいと思ったことに苦笑した。

「あなたにお願いがあります」
「暗殺者に、叶えられる事なんて、ない」
「殺してください。自由になりたいの」
そいつの背中はようやく動き、彼女へ向いた。静かに閉じた目が彼女を見ていない。
「お馬鹿。殺すわけない。強くなりなさい」
「強く?!」
彼女は嫌悪している。
強くなる術は、手を赤く染め、それを数えることだけだったから。
「誰よりも殺して、誰よりも強くなれっていうんですか!?」
「お馬鹿」
そいつは、目を閉じたまま短く再びの言葉を吐く。
今思えば、開けた瞳を見たことがない。
完敗の相手は、数段も上だ。
今更、そう思う。

427 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:18:14 [ W7Ssoff. ]
「人生暇つぶし。暇はまだ終わってない」
意味の解らない、どうでも良い言葉がそいつから出てきた。
その、どうでも良い言葉が、どうしてこんなに、こんなに。
彼女に笑みを与えるのだろう。
「名前」
「ラプンツェル……プルートゥ」
「死神は今日死んだの。この、小鶴真理が殺した」
初めて見た物、それは瞳。まっすぐな、そいつの、真理の瞳。
瞳に見入った彼女は、不意に肩へ痛みを得た。
彼女を殺す一撃。
肩への、峰打ち。
「さ、来て」
誘われるがまま、真理の導く先へ。
死にたがりの望みは叶えられず、彼女は痛みに、
何故か微笑んだ。

428 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:18:44 [ W7Ssoff. ]
歩く。
飛ばなかった。
会話を、一方的に。
「親に、良いように扱われました」
「ん。もう死んだ」
「人をいっぱい……殺しました」
「軍人だから、当然」
「え?」
「ラプンツェル」
「はい……」
「ラプンツェル・フレトリア」
「?」
「今日から、そう」
「はい……」
「今日から、でも」
「でも?」
「歳」
「16です」
「16年前から、ラプンツェル・フレトリア」
「……はい」

429 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:19:17 [ W7Ssoff. ]
「死にたがり。死んだ」
「……」
「生きろ」
強く、突き刺さる言葉だった。
「……」
「これは、贖罪」
「……はい」
「目的」
「……?」
「生きる目的を探すまで、生きろ」
「……」
突き刺さるのは、明かな励ましで。
彼女にとって、一番解らぬ事で。
でも、新鮮で。
だから、受け入れてみたくなった。

430 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:19:48 [ W7Ssoff. ]
そして、半年――。
「ここで待機」
「はいっ!」
何かを思いだし、生み出したのはラプンツェルで。
教導隊での活動は、生産的な攻撃を生んでいる。
そこに喜びを受け、教官候補の真理は、いつでも彼女を支えていた。
放任された支援だが、十二分に暖かく感じて。
死者が出ることに、友人の死者が出ることに苦しく思う。
時折とは言え、それはやるせないことで。
あの、苦悩の日々には無い、苦しみだ。

友が散り、新しく友が入り。
命のやりとりは苦悩で。
それを守ることに、守れる可能性があることに、彼女は幸いを感じる。
苦悩と背中合わせの幸いが、彼女の出来ることに、鮮やかな色彩を持たせていた。
もう、あの願いは忘れている。
殺して欲しいと。
ふと、一人の夜に彼女はそれを思い出し。
生き延びる、ふがいない自分をあざけり。
生きている自分を、嬉しく思った。

431 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:20:26 [ W7Ssoff. ]
ごめんね。

あの、苦悩で関わった命と、自分の命に謝罪して。
彼女は命を背負う。
これから生まれ、これから守れる可能性のある、命を。

432 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:20:59 [ W7Ssoff. ]
明日を嬉しく思う。
明日が来ることを嬉しい、と思えるようになった。
まだ、自分の過去や、生い立ちを恨むことはある。
それでも今、この小隊に配属され。
笑っている。
嬉しいと思う。
喜ばしい感情を持っている。
自分の過去を殺した無表情な剣士に、感謝の言葉で描けるほどの思いがある。

あれから、同じ小隊に入ってきた剣士と二人きりになったときの話だ。
「ありがとうございます。今……毎日幸せです」
「昔が不幸だから」
「え?」
「だから、今を幸せに思えばいい」
「ええ……」
星を見る。
あのまっすぐな瞳に映る星は、何より美しいと彼女は思う。
自分を救ってくれた瞳は、いつまでも自分を照らしているようで。
明日も生きている剣士を、そしてそこに宿る星が、
彼女の命の灯火のように、明日も照らしていると確信して。
やっと、柔らかく自然な笑みが出た。
(にきょくめ おわり RADWIMPS 閉じた光 http://www.radwimps.jp/discography.html

433 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:21:55 [ W7Ssoff. ]
「という、いきさつ」
「……ちょ、ちょっと待て。真理さんが教導隊蹴った理由がどこにもねっすよ!」
いつもの、平和なオフィスの昼休み。
真理が教導隊を蹴った話をしていたはずだ。
当の本人と、助演女優は、柔らかく笑う。
「まだ入りたてなのに、私を無理に入隊させちゃったからなんですよ」
「教導隊、向いてないし」
いいえ、とラプンツェルは首を振り。
「私にとって、最高の教導でした」
「ラプ子も変わった人生送ってんだな」
「えへへ。恥ずかしいですね」
「申し訳ないと思っているだけ、成長したのよ」
「贖罪も断罪も終わってるから」
「いえ」
まっすぐな瞳を、愛すべき同僚達に向け。
それを歪めた。
弓なりに、微笑みの形。
「救える命がある限り。終わりません」
静かな決意が、確かな決意に。
「手伝い、する」
微笑みは、真理にも映り、
そして、移り。
「頑張ります」
いつもの努力家が、さらに強い意志を持つ。
*終わり

434 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:23:18 [ W7Ssoff. ]
これを契機に、最後の勝負を、VIPでしてみる。
期待されようがされまいが、最後の勝負がしたくなったのです。
納得行かない終わりかもしれないが、つき合ってくれたら幸い。

だので、一番大事な部分を短編にして、意欲にさせて貰いますよ。

最後に、
ぶるみゃー、
らっこ君、

良い曲だね。
ありがとう。

435 名前: 隣りの名無しさん 投稿日: 2006/08/30(水) 22:27:59 [ 6l6mqvwA ]
うひーww
真理さん、こういう感じに絡んでくるのかーwwwww

教導隊の真理さんもちょっと見たかったかもですが、
暗殺者なラプさんも……(*ノ∀`)

436 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 22:34:52 [ W7Ssoff. ]
>>435
「あの頃は……あはは……」
「あれは、もう死んだし」
「ですね……」

437 名前: 隣りの名無しさん 投稿日: 2006/08/30(水) 23:43:25 [ GZvN8BfU ]
バイトから帰ってきてみたら投下が……(´・ω・`)

やばい、真理さんに惚れそうだ……w

438 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/30(水) 23:55:50 [ W7Ssoff. ]
>>437
「ぶい」
「カメラ目線っ?!」

439 名前: 隣りの名無しさん 投稿日: 2006/08/31(木) 02:50:31 [ M0aRsUZc ]
今更真理さんの魅力に気付いたのか!ふっ、遅いな…!
ここで平凡くると思わなかったwwwww
続きもwktkしてます(`・ω・´)

440 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/31(木) 20:50:39 [ 4tAwoyn. ]
>>439
なんかぴったりいっちゃったのよねw
輝く星>自由
とか
平凡な数>日常で殺す数
なんてなw


さーて、どうしよかな。
様子見せんと……タイミングむずw

441 名前: 隣りの名無しさん 投稿日: 2006/08/31(木) 21:25:42 [ 4Fj9GoSk ]
なるほどー、あくまで平凡は「自分にとって」って事か…うまいもんですなぁ。
ぼくにはとてもできない
そして再開wktk

442 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/31(木) 23:33:03 [ 4tAwoyn. ]
>>441
明日やりまーす!

誰かの平凡は誰かのじゃない。
ってことは、二人にとって大事なことなのさ。
望んで訓練した真理と、望まれぬ訓練をしたラプ子。
望んだ結果を昇華したかったラプ子と、新しい望みを作りたかった真理、
二人はステレオタイプで似たもの同士なのですフフフ

平凡が、それぞれの当然で
閉じた光に感情爆発を頼んでみたのだ!
持ってきた声は殺して、で
忘れてしまって生きている。
良いこと、良い方向に。
すっからかんのころんのすってんころりんちょんのぽんて適当に改名とかなw(ぱぱー

443 名前: 二郎剤 ◆h4drqLskp. 投稿日: 2006/08/31(木) 23:34:29 [ 4tAwoyn. ]
なんか怪文書になってるorz
誰かの平凡は自分の平凡じゃない
に改訂

んで、つまり
常識も日常も、他人には異質なもんなんですよ、ってね
過去の癖が強い二人にはぴったりだーって事で組んでみた!